こういうかたちで書き散らしてるときは大体筆が止まっているとき。
- 最近は宮沢賢治の研究書とかドキュメンタリー本を読み漁っていたりした。
- 作家としての宮沢賢治は詩人・童話作家の側面がよく知られているが、研究史の点でいえば評価のされ方に紆余曲折があったらしい。生前に十分な評価を得られなかった存在だったのが、弟・宮沢清六氏によって知名度が上昇していき、岩手県においては一、二を争うメジャー作家になった。しかしその一方でというか功罪というか、作品読解においては表面的な読みが多かったりして、これは宮沢賢治の人物像がある意味で神格化されていたことによる。そこから脱却する意味があるのかないのか、1970年代あたりから、宮沢賢治の人生にフォーカスをあてた研究が多く出てくることになる。菅原千恵子による宮沢賢治の同性に対する愛情の指摘(『宮沢賢治の青春』)、上田哲による宮沢賢治の宗教観——特に国家主義的仏教団体「国柱会」への入れ込みの深掘り……といった、人生の掘り下げ。そういった研究からわかってくるのは、不思議で独特な作品世界がどうも実体験を多く反映しているという事実。また、作品モチーフとしてよくあげられる存在、妹のトシには女学校時代に音楽教師とのスキャンダルがあったということも研究者によって深掘りされている*1。とにかく「切り口」が山のように存在するのだ。
- なかでも、今野勉『宮沢賢治の真実』は詩のわずかな描写と当時の地図や史料とをつきあわせて、宮沢賢治の執筆状況(彼がいつ、どこに、どんな状況でいて、そのとき何を思っていたか)を丹念に読み解き、推測していく。この過程が大変スリリングだ。推測に対して決定打となる証拠がない箇所も時折あるせいで研究書というにはやや弱いが、ノンフィクション作品として相当の出来。
- 今は上田哲『宮沢賢治―その理想世界への道程』を読んでいる。宮沢賢治の宗教観(特に、国家主義的宗教団体「国柱会」からの影響)を丹念に読み解く労作。ちなみに、上記の上田氏は先行研究の甘さや事典情報の誤りを結構辛辣に指摘・批判している。研究書を読んでいると、著者それぞれに様々なスタンスがあるのが読み取れるのはとても面白い。本の向こうに人間が存在するのを実感させられる。
- 作者: 今野勉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2017/02/28
- メディア: 単行本
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宮沢賢治―その理想世界への道程 (1985年) (国文学研究叢書)
- 作者: 上田哲
- 出版社/メーカー: 明治書院
- 発売日: 1985/01
- メディア: ?
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- 水曜日は休みをもらって映画→ライブ→読書という流れを組んだ。
- 『ヘレディタリー/継承』はおそらく今年一番のホラー。過去10年でもトップクラス。秘密主義の祖母が亡くなってからというもの、四人家族の家に奇妙な出来事が起きていく……というタイプの現代ホラーなのだが、演出・脚本が映画として最上の出来である結果、あまりにもこわすぎてもう一度観に行く勇気がでない。俺はホラーがホラーとして成立するにはある種のルールが必要だと思っていて(ホラーに限ってことではないのだが、つまり「なんでもあり」って駄目だよね、くらいの話)、本作はそれが終盤直前まで本当に読めない。で、読めたと思ったらどんでん返しがぶちこまれる。電柱といい舌の音といい、演出が全部こわい。母親が失言したあとに口押さえるところとか本当に最悪だった。これらは全部褒め言葉です。
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- 映画をみたあとはさいたまスーパーアリーナで宇多田ヒカルライブ『Laughter in the Dark』を。ネットに転がってるセトリを見ると20曲くらいあった。もう全日程が終わったみたいなのでネタバレしますが、終盤の「First Love」から「初恋」へのつなぎは最高だった。終わったあと、拍手が鳴り止まないんですよ。それにしても、宇多田ヒカルはライブでも歌声が変わらないのすごいなぁ……。
- 帰りに『やがて君になる』ノベライズを買って読む。上質。佐伯沙弥香をメインにした短編・中編が2つ入っている。1編は小学生のころに同い年の女の子から受けたアプローチについて。もう1編は、原作でも軽く語られていた、中学時代につき合っていた先輩との話。この二つで描かれるのは「女性への恋心を自覚するまでの心の動き」だ。優等生である(そしてそのことを自覚している)沙弥香が同性への感情を自覚していく中で感情がはちゃめちゃになる描写がすごい。「あ、こいつ落ちた!」っていうその落ち方が見てられなくて、こちらの感情がはちゃめちゃになる。アニメも毎週悲鳴あげながら観てますが、このノベライズもやはりおすすめです。
- 作者: 入間人間,仲谷鳰
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/11/10
- メディア: 文庫
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*1:流石にかわいそうでは……と思った。