真っ白な館

思い付いたことを書きます。

Crypkoがゲームとして衝撃だった理由を説明する

はじめに

www.itmedia.co.jp
これのブコメに「ブロックチェーンかゴミかよ」「補助金もらえますね」「プロのイラストレーターには勝てない」みたいな的外れなコメントがついているのを見て、これ解説しないとダメだわということに気づいたので書いておく。
なお、自分はCrypkoのオープンβ版しか遊んでいないので、PFNが提供を始めた現行のサービスがこの解説と同じサービスであることは保証しない。

要約

旧Crypkoのキモは次の3つだった。

  • 女の子を「合成・配合・売買・貸与」することが倫理観をハックする
  • ブロックチェーン技術で画像の一意性を確保しつつ仮想通貨取引と紐付けて収益をあげるシステム(ただしβ版のときは無料)
  • ワンクリックできれいな画像がサクッとできあがることの快楽/所有欲

このサービスにおいて、ブロックチェーン技術の特徴・長所をシステムにしっかりと組み込んだ意味のあるものなので、「流行りの技術を適当に使っただけ」という感想は完全に的外れだ。大体ITmediaの記事ただプレスリリースぶん投げただけじゃねえかよまともな解説の一つでも入れろっての。

Crypkoの概要

CrypkoはPFNが一から作ったものではなく、元々は Aixileさんが作ったサービスだ。2018年4月にはオープンβが公開されていた。実例動画も同タイミングでYoutubeに公開されている。

One Minute Exploration in Crypko Space
前述のITmediaブコメで知ったけれど、Aixileさんは現在PFN所属であり、インターン時?に前身にあたる女の子キャラクター自動生成サービス「MakeGirls.moe」を制作している。
make.girls.moe

Crypko(旧)のシステム

まず、旧Crypkoは「ゲーム」だった。それも「ユーザーがカードを作るトレーディングカードゲーム」に近い。
このゲームにおいて1枚1枚の女の子は「遺伝子」を持っていると形容される。ここでいう遺伝子とはブロックチェーンを指す。すべてのブロックチェーンは別のデータであるので、1人1人の女の子はまったく別の「遺伝子」を持っている。
プレイヤーは女の子の「遺伝子」を合成することで、新しい女の子の「遺伝子」を新規で生み出し、新しい女の子を生成することができる。新しく作られた女の子は、それを作り出したプレイヤーのものになる。これは何も比喩ではなく、生成された画像の著作権はプレイヤーに帰属する。
そして、これが旧Crypkoのキモなのだが、このサービスでは自分が作り出した女の子をレンタル・売買することができる。
プレイヤーはサービスを登録した時点でどの女の子も持っていないので、プレイヤーは初手から市場に出回っている女の子を買ったりレンタルしたりする必要がある。そうやって女の子を合成して、自分だけの女の子を作り上げていく。ちなみに、女の子のレンタル料・購入代金は仮想通貨のイーサリアム。ただし、オープンβ版はテスト用のイーサリアムを使っていたので、実質的には0円の価値しかないゲーム内通貨だったんだけど。

旧Crypkoの何が衝撃的だったか

①女の子を「レンタル・売買」するということ

このゲームでやることのメインは女の子を数十人・数百人・数千人と合成・生成・売買・レンタルしていくことにつきる。
このサービスは女の子をレンタルしないことには何も進まない。プレイヤーは最初に15ETH(仮)を付与されるので、その初期予算を元に他人から女の子を買うなりレンタルするなりする。だけど、後述するように画像の生成精度はあまり高くないので、自分の気に入る女の子を作り出すまでにはそれなりに試行回数が求められる。当然ながら何度も何度も合成していると予算が尽きる。結果、プレイングとしてキャッシュフローを得るために、自分が合成した手持ちの女の子を恒常的に売りに出すかレンタルに出すかをしなければならない。
そして、これが楽しいのである。自分はそれなりにそういった話題に敏感でいたいと思っていたけれど、このサービスはその倫理観をいともたやすく打ち砕いてくれた。そう、このゲームでは女の子を売買したりレンタルするのが楽しいのである。

ブロックチェーン技術の長所をサービスのシステムに落とし込んでいること

ここでの「ブロックチェーン」の位置づけは、まあ開発当時は仮想通貨バブルがかなり膨れていたのである種の目新しさを売りにした部分がなかったわけじゃないだろうけど、同時にその技術の長所を活かして応用しているのでただの流行りにのっかった技術ではない。
まず、女の子の「遺伝子」をブロックチェーンにしていることは、決済手段を仮想通貨にすることと大変相性がいい。プレイヤー市場における「カワイイ女の子の価格が高騰する」という現象が起きても、「合成1回につき○○円」という手数料しかサービス元は受け取らない仕組みであることも巧い*1
更には、ブロックチェーンの固有性と改善不可能性は、その画像が「ユーザーにとって世界でただ一つだけの画像」であることを保証する。これは、前述したような生成された画像の著作権がユーザーに帰属するときに大きな意味を持つ。その画像がどれだけ他のものと似ていても、画像がオリジナルであること、そしてその権利の帰属先がプレイヤーに存在することを、ブロックチェーンの記録が技術的に保証してくれるからだ。
ちなみに、ブロックチェーンを用いていることで、その女の子の「遺伝子」の履歴を辿ることが非常に容易になっていることもポイントの一つである。

③「それなりの画像」を「簡単に作れる」ということ

旧Crypkoに課題がなかったかと言えば、あった。
まず、画像生成は結構な頻度で失敗する。バランスの崩れた画像はそこそこの割合で生成される。実際に自分の手持ちの画像を上げるとこんな感じだ。

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#551036
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#551036
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#26295
いま上げたような画像は、自分の手持ちの98人の女の子のうち、正直いまいちだなと思ったもの。こういう画像はガンガン作られるし、むやみやたらに作られるとこういうものばかり生まれていく。余談だが、Crypkoには名物プレーヤーに「†くりぷこのおはか†」という人がいらっしゃって、バランスのひどく崩れた女の子はその人が買い取ってくれたり売りつけたり贈与したりすることができた。名前ェ……。
なお、特に致命的だと思っていたのは眼鏡の処理で、眼鏡の部分がまともに作られることは一度もなかった。
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#71861
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#145916
Crypkoが良い感じに「見える」のはあくまで「いい感じ」でしかなくて、どこまで行っても細部に違和感は残ってしまう。
これは改善が必要だった部分だろうし、実際企業での提供がはじまったいまでは改善もされていると信じているが、「プロのイラストレーターには勝てない」という批判が的外れであることの理由もここにある。そもそも、Crypkoでの画像生成はどうしたって細部が適当なものばかりなのだ。
しかし一方で、この「いい感じ」が「簡単に作れる」というのがCrypkoの一番の強みだった。一流のイラストレーターになることのできない、いやそもそも普段絵を描かない人間にとって、その「そこそこ」を生み出すことすらものすごくハードルが高い。それに対して、Crypkoは「ワンクリック」で「いい感じの絵」を「インスタントに生成する」ことができる。もちろんそれを行っているのは画像生成技術なのだが、「遺伝子のかけあわせ」というメタファー=何と何を配合するかという選択肢をプレイヤーが握っているという事実は、「プレイヤーが自分で女の子を作った」というプレイ体験を強く強く裏打ちするものになっている(「世界でただ一つのイラスト」ということの重みはここでも強く作用する)。この、「自分だけの女の子」を作るという快楽が、Crypkoは半端なかったのだ。
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#36935
これは俺の。
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#551040
これも。
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#36917
これも!!
誰でもインスタントに自分の女の子を作ることのできるという事実はプレイヤーの欲望を一気に引き出す。
もっといい、もっと綺麗な、もっとステキなキャラクターを……というのにはまり込むと、もう合成がやめられない。より自分の好みである女の子を作り出すことに向けて、プレイヤーはどんどん邁進していくことになる*2

まとめ

自分は、旧Crypkoを「ブロックチェーンゲームか、最近仮想通貨流行ってるし軽く触れてみよ」くらいの気持ちではじめた人間だった。それが、蓋を開けてみたら女の子の売買を楽しむゲームで、それにとてつもない快楽を感じて倫理観をハックされた。
今回のPFNのプレスリリースは企業向けでのサービス提供しかしないみたいだが*3、あのプレイ体験はちょっとした革命だったので、いい感じにゲームバランスを整えて一般の人々にサービスを提供してほしいなと思う次第である。技術と技術の組み合わせで生まれた「それほどすごいことをしているようには思えないサービス」が人間の倫理観をハックしてくるのはSFですよ。現実はSF。

*1:繰り返すが、オープンβでは完全無料サービスだったのでサービス元は一切利益を上げていない。

*2:なお、ここまで読んだ旧Cryokoプレイヤーならなんとなく気づいているかもしれないが、自分自身はβテスト終盤になったらほとんどCrypkoに触れていなかった。合成ナンバーがほとんど若いものばかりなのがその証拠。一番最後に上げた#36917が早々に生まれてくれたからである。それでも50万の女の子が生み出されたと思えばすごいことではあるが。

*3:このサービスは「固有の画像を大量生成できる」ということに一番の強みがあると思っているので、企業へのサービス提供という点だと「プレイヤーのアイコン生成」とかに使えるのかなとは思っている。