真っ白な館

思い付いたことを書きます。

『文体の舵をとれ』1章練習問題

最近、『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』のワークショップをネットの友人知人たちとやってます。
所謂文体練習が10章分用意されており、先週までで4章までの合評会が実施され、現在5章の問題にとりかかっています。
でまあ案の定筆が止まりかけているため、現実逃避にこれまで解いた問題を公開することにしました。最近仕事が忙しくて更新の気力がない感じなので気分が向いたら2章以降も公開しますね。
言い訳や意図の説明は基本禁止なので書かないことにします。

1章「文はうきうきと」

問1:一段落〜一ページで、声に出して読むための語り(ナラティヴ)の文を書いてみよう。その際、オノマトペ、頭韻、繰り返し表現、リズムの効果、造語や自作の名称、方言など、ひびきとして効果があるものは何でも好きに使っていい――ただし脚韻や韻律は使用不可。

 ああ、アンタの言うとおりさ。いつだってこうなんだ。些細なことですぐタガが外れちまう。
 勘違いしないでほしいが、俺だって我慢してる。「ときどき」とか「ほとんど」なんてもんじゃない、「いつも」だ。目が覚めたらポリ公どもの薄汚い檻の中……ってのがどんな気分か知ってるか? はっ、そうだろうよ。インテリさんは知らなくていいことさ。何百人の胃液を浴びた床にはゲロの臭いがこびりついて、夏に入ると部屋の中に充満して、俺の胃液も浴びたがってる。冬なら多少はマシなんだが、代わりに音が最悪だ。身じろぎしたときの、関節の筋肉からギシギシと音が鳴る。ギシギシ、だ。他人には聞こえない、骨を伝って鼓膜に届く、あの音。ギシ、ギシ。
 むかつくのはポリ公どもだ。馬鹿にした、見下した視線を向けてくるやつはまだいい。絶対に顔は忘れない。次絡んできたとき、さりげなく一発ぶちこんでやる。だがな、そうじゃないやつら……憐れみや無関心の目で見てくるやつら、あいつらは……俺を家畜か虫だと思ってやがる。ふざけやがって!
 言いたいことがわかるか? 最悪の目覚めってことだ。
 誰だって朝は楽しく目覚めたい。だろ?
 俺だってそうさ。目覚める度に感じるあの感覚、ずぶ濡れの衣装を着せられたみたいに身体が重い。あんなのはまっぴら御免だ。そんなのわかっちゃいるんだ。でもな、何処にでも売ってるあれ、みんなの娯楽、俺にとっての命の水を少しでも口にしたら……。
「ポン!」さ。全部吹っ飛んじまう。朝の決意も明日の予定も、なにもかもだ。毎日。毎日だ。ポン。ポン。ポン。ポン。
 最高の朝から最高の一日が生まれる。それがわかってても、俺はずっと最悪の日々をすごしてる。

問2:一段落くらいで、動きのある出来事をひとつ、もしくは強烈な感情(喜び・恐れ・悲しみなど)を抱いている人物を描写してみよう。文章のリズムや流れで、自分が書いているもののリアリティを演出して体現してみること。

 全身を弛緩させていつでも動き出せるように街灯の影に隠れ続け、数時間は経った頃、人通りの失せた道に足音が響いてきた。衝動が膨れあがる。まだだ、まだだ、あと少し、興奮は動きを遅らせる、最速で動けるよう、激情を肉体から切り離して待つ。少しずつ近づいてくるにしたがって、頭の中の衝動は今か今かと暴れ狂う。長く伸びた影が視界に入る。あと九歩。ラフな格好の女性を視界に認めた。あと八歩。金髪が街灯に美しく光り、あと七歩、スマートホンを片手に持っている、あと六歩、イヤホンから漏れた音が彼の耳に届き、五歩、両手の縄をしっかり握り、四歩、道の反対側にある看板がひかる、三歩、彼女はそちらに視線を向け、二歩、視界の死角を見逃さず、一歩、彼は静かに踏みだし、今、首に縄が。

やってみて思うのは、普段自分がどれくらい書き方に制約をかけてるかってことですね。無意識の枷が外されていく感じがある。
文章は自由に書いていいんだよ。