真っ白な館

思い付いたことを書きます。

チャック・パラニューク"Rant"読書メモ2(4-9章)

前回から1年以上開いてるのは勿論読むのを完全に中断していたからです。
文章にまとめるため読んだ箇所を再読してたら「えっこういう話だったの?」みたいな気づきというか理解せずに読み飛ばしていた箇所がゴロゴロ出てきたのでむしろ誤読があったら指摘してほしい……。
前回はこちら。
whiteskunk.hatenablog.com

主要登場人物

バスター〈ラント〉ケイシー:パーティ・クラッシャーの指導者。故人
アイリーン・ケイシー:ラントの母。
チェスター・ケイシー:ラントの父。荒々しい性格っぽい。
ボディ・カーライル:子供時代の友人(おそらく親友)
ベーコン・カーライル保安官:子供時代の敵(ボディとの関係性不明、父or兄?)
エコー・ローレンス:パーティ・クラッシャー、ラントの信奉者
ショット・ダンカン:パーティ・クラッシャー、ラントの信奉者
グリーン・タイラー・シムス:歴史家、要所要所でのミドルトンの背景説明をしてくれる。
ウォレス・ボイヤー:カーセールスマン。1章でチェスターと同じ飛行機に乗り合わせただけかと思いきや8章で再登場する。

4.フェイク・スター

ラントが赤ん坊だったときのこと。ラントのためにしつらえられた部屋には星があつらえてあって、星の数を数えながら彼は眠りについていた、とエコー・ローレンスは語る。
近所の住人の証言。母親のアイリーンは13の頃にチェスターと出会い、14の頃には妊娠していた。医者からは中絶を進められ、母イースターからは呪われた悪魔の子だと罵られる(その母も娘と同じ年齢で子供を生んだとされているが)。
ラントは母親にあやされて育った。お気に入りの「クマ」(うさぎのぬいぐるみ)を抱きながら、母は「私の天使…」「完璧な小さな男の子…」とベビーベッドで彼に言い聞かせていた。
近所の住人は、ラントが最初に終わらせたのは母親の人生だと言う。
エコー・ローレンスは語る。ある日、彼の母親は、ベッドで寝かしつけているときに突然「このおぞましいチビの化け物め(You disgusting little monster)」と告げたという。その時が彼の、ラントの本当に生まれた瞬間であったと人々は語る。
時系列が飛び、曾祖母が死んだ話。幼少期にときの様子が語られる。祖母が死んだ次の年の感謝祭に、彼の曾祖母が肺炎で死ぬ。
グリーン・タイラー・シムスのフィールドノートはペストの歴史を語り、1930年代までに死ななかったマーモット(98%は死滅)は腺ペストのキャリアであることを示唆する(彼の曾祖母は首にいつもファーを巻いていた)。
エコー・ローレンスはRantが祖母が雲に噛まれる夢を見たと語る。
カーライル保安官はそれをラントの罪の意識によるものだと指摘する。
母親は自分が赤ん坊のときにラントを罵ったことはないと否定する。

5.インビジブル・アート

ボディ・カーライルの語り。幼少期のころ。アイリーンは「書く段階では見えない絵」を卵に描くのを趣味にしていた。ゆでると色が浮き出るのだ。
ラントと友人のボディ・カーライルは、ある日母親と一緒に同じ遊びをしていた。それを見つけた父は激怒し、アイリーンが絵を描いていた卵を昼ご飯に食べてしまう。ラントは卵製のマークII榴弾を作った。
エコー・ローレンスの語り。ラントが話していたところによると、庭園は母親のテリトリーで、様々な花が植えられていた。芝生は父親のものだった。
イースターの日。イースターエッグを自分の家の庭で探していたとき、ラントはblack widow spider(クロコケグモ)に噛まれてしまう。腕がキャッチャーミットのように膨れあがったラントに対して、父親はイースターエッグを見つけるまで家に入れないと告げる。母親がシャワーから上がったときには、ラントは祖母を襲った死の運命から逃れるために、必死でイースターエッグを探し、母親の花壇をぐちゃぐちゃにしていた。花壇の中には残りのイースターエッグは見つからなかった。その夏アイリーンの花壇はぐちゃぐちゃなままだったし、翌週には父親の芝生もそうなった。
エコー・ローレンスの語り。ラントは全ての卵を見つけ、毎週芝刈りの直前にその腐った卵を芝生に配置するようになった。腐りきった爆弾は、芝刈り機が巻き込んだ瞬間にひどい爆発を起こす。やがて、家の庭は誰も刈らないまま野放図になった。
エコー・ローレンスは、ラントが死ぬ前に彼から卵をもらっていた。彼はそれを未だに持っているが、それを割ったときにどうなるかを考えて恐怖する。
ボディ・カーライルは、ラントの死後にFBIが卵の話を興味深く聞いていたと語る。
アイリーンは、その年の冬に祖母を痛めつけた犬が野放図になったままなのを見つける。

6.歯の妖精

ボディ・カーライルの語りと、幼少期の友人やミドルトンの住人たちの語りが入り混じる。ラントとボディはボーイスカウトをしていたころ。彼らは家々を歩き回ってその家の掃除を兼ねた空き缶あつめをしていた。ある日彼らは、とある家で拾った空き缶の中に、たくさんの金・銀の1ドルコインを見つける。彼らはそれを使って歯の妖精ごっこを始める。子供たちの乳歯を一ドルコインとひっそり交換していたのだ。
何人かの大人は、子供たちの持っている古いドルコインが古い貴重なものだと気づいた。だが、それを子供に伝えることなく、町の商店の男はそれを子供に言わずにコインショップで換金していた。町の経済が潤ったことで、商店から子供向けの商品が逆に減ることになる。
ショット・ダンカンの語り。感謝祭のディナーの日、6人の親戚が食卓を囲んでいた。ディナーが終わるまでに祖母のベルが汗と発熱に襲われていた。病院に行くまでにベルの呼吸は止まった。

7.お化け屋敷

ボディ・カーライル曰く、ラントは拾った金貨を一回だけ、食肉工場で使ったことがあるという。
ミドルトンの教会の司祭の語り。ミドルトンの町にあるホールでは年に一度お化け屋敷が作られる(ハロウィン的なの)。ラントはそこで子供を一人一人中に連れていき、真っ暗な中で目を隠してお菓子を触らせて「これは脳味噌だ……」「目玉だ……」と脅かしていた。
幼少期の隣人女性の語り。ある年、小さな女の子がひどく泣きながらお化け屋敷から出てきた。手や服は血まみれで、涙を拭う度に顔も汚れる。彼女を落ちつかせようと話しかけると、暑い日に肉がダメになっていくような臭いがしたという。
隣人たちは次々とそのときに抱いたイメージ、そのときの様子を語る。
教師のローウェル・リチャード曰く、ラントは暗闇で少年に色々なものを触らせていた。ボウル一杯の血。豚の肺、脳みそ。サラダボウルには色んなサイズの目玉。その少年に、「これは心臓だ……」と言いながら、鶏の心臓を触らせていた。
カーライル保安官曰く、ラントが子供がそういうものを触りたがっていた、お菓子では怖くないからと語っていた。
ローウェル・リチャードは、(そのときの)ラントは邪悪ではなかったと言う。みんなに本当の冒険を一回だけでも体験させたかっただけなのだと。その夜、確かにミドルトンには本物の何かが起きていたのだと。
ショット・ダンカンやシムスのフィールドノートは、様々な伝承が存在するものの本物は今や存在せず、歯の妖精やサンタクロースのようなものでも子供は成長するにつれ想像力や信じる心を失っていくと語る。
ミドルトンの司祭は、今でも暑い日にはホールが臭うと語る。
子供時代の友人は、彼が「ラント」と名乗りはじめたのはこのときだと語る。辺りが騒然となる中で、子供たちが「Rant!*1」と異口同音に叫び始めたのだ。
ボディ・カーライルは、ラントが上京する前に彼が集めた歯を全てもらっていた。ラントはその歯が詰まったミルクの空き缶を「ミドルトン・トゥース・ミュージアム」と呼んでいた。

8.ペース(Pacing)

冒頭でRantの父親と話していたカーセールスマンの独白。セールスマンに求められる能力について話す。人間はコミュニケーションのうち55%をボディ・ランゲージに頼っているから、優秀なセールスマンは相手の「ペース」に合わせる才能がある。呼吸をあわせる。首をかいたり指で足をたたいたりする動作を真似る。そうやって相手が会話でどんなタイプの人間なのかを理解する。
エコー・ローレンスは目で聞く人間、ずっと会話相手を見ている。
ショット・ダンカンは耳で聞く人間、こちらと目をあわせずにこちらの声の調子に反応する。
ネディ・ネルソンは動いたりや相手に触れるタイプ。叩いたりこちらに触ったりして会話相手が話を聞いてるかたしかめる。
いいセールスマンは相手と同じ動作をし、相手と共感する能力がある。
そして本当に成績がいいセールスマンは、自分が相手にクソを売りつけていることを理解している。

9.釣り

ボディ・カーライルがラントとの「釣り」の思い出を語る。ただし、それは水ではなく土の中で行われる「動物釣り」だった。
ラントはその夏、朝に砂地で手を地面の穴に入れて、動物に噛まれることを繰り返していた。black widow spiderに噛まれたことで彼にはある種の毒への耐性ができていたと語る。彼はガラガラヘビやコットンマウスといった毒蛇に何度も噛まれて/噛ませていて、親には「釣りに行く」と毎日言っていた。
母親曰く、その頃のラントの腕は発疹や赤蟻に噛まれた痕だらけだった。
ボディ・カーライル曰く、その頃ラントは色んなことへの「免疫」をつけようとしていた。そこには三つの地平があった。痛み、毒、そして病気。スカンクやラクーン、コヨーテなどにも噛まれていた。
グリーン・タイラー・シムスは彼の幼少期の精神がセックスと毒でめちゃめちゃにされたと指摘する。ラントは勃起不全であり、祖母の死の際に勃起していたという。
エコー・ローレンスは初めてラントに会った時の思い出を語る。蛇に噛まれたことがあるかと聞いてきた彼の腕はどうなっているか想像する。
ミドルトンの医者のデイヴィッド・シュミットは、過去10年間に診察した狂犬病(rabies*2)の診察が、6件中6件がラントのもの、女の子の場合は47件でうち2件が女性教師、3件が父親不明の妊婦だったと言う。彼が町を離れてからは0件。
友人の一人ルーアン・ペリーは、ラントとキスしたことがあるという。ただし、お腹にいた子の父親はラントではないし、キスの後に彼女も狂犬病にかかったという。
ショット・ダンカンは語る。

奇妙だろ? 性的倒錯を抱えた狂犬病のガラガラヘビ毒中毒者——全ての父親にとって悪夢と言っていいだろう。

ボディ・カーライルは彼との「釣り」で野ウサギに噛まれたときにことを語る。

二人とも手足の小さな噛み穴から血が流れていた。僕らの血が熱い太陽の下砂の上に流れ落ちるのを見ながらラントは言った。
「この場所でのこれ」彼は続ける「自分にとっては、礼拝ってきっとこんな感じなんだ」

ここまでの感想

基本的な構成としては、親友ボディ・カーライルの回想が主軸。それに対して、様々な人物による補足エピソードが挿入されていく。ただ、結構な箇所で信頼できない語り手が混じっている結果、個人個人の解釈や彼ら彼女らの語るエピソードが総合的に相矛盾してくるのが面白い。
それと、8章でしれっとセールスマンの男がパーティー・クラッシャーの人たちと知り合いになっているので、現在でも何かが進行している節が見受けられる。
まだ全体の1/3にも達していないので(全42章)、これからが楽しみ。ラントが上京してしまうとボディ・カーライルが語り手としては後景に退かざるを得ないはずなので、新キャラが出てくる筈。楽しみ。引き続き読み進めていきます。

Rant: The Oral Biography of Buster Casey (English Edition)

Rant: The Oral Biography of Buster Casey (English Edition)

*1:rant自体は「わめく」「怒鳴り散らす」などの意味がある。

*2:ここでのrabiesって普通に調べたら狂犬病以外の意味がないっぽいので間違ってない筈なんだけど、ラントはともかくそれ以外の人たちへの感染率高すぎない? 何人死んだの? それと、狂犬病への集団感染ってかなりの大事の筈なのに作品内では語られない。後半で色々あかされるのか、それとも俺が病名を誤読してるのか。