真っ白な館

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完全新作・換骨奪胎・百合・続編――『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション2』感想

11月6日(火)の試写会に当たっていたので観てました。
※以下、エウレカセブンシリーズのネタバレを大いに含みます。


映画 『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』 本予告60秒
交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』は技巧的な作品だった。テレビシリーズ4クールのうち26話までの物語を「レントンの成長譚」として再構築するにあたって、おそらくは設定の裏側を「レントンの祖父が物語の始まる前に亡くなった」という部分のみ切り替えていて*1ビームス夫妻に引き取られて彼らの養子となっているのはそこから演繹されるにすぎないだけで、積み重ねた時間の少なさから物語のなかで彼ら三人の関係性は実のところテレビシリーズと大きく変化していない、と言えるだろう。むしろ、そのことによってテレビシリーズの中に埋め込まれていた様々な物語やテーマを「レントン」だけに絞り(そこではエウレカの存在すらもほぼほぼオミットされていて、マクガフィン同然の存在である)、そのことによって『ハイエボリューション1』はレントンが『父を乗りこえる』と同時に『父の子であることを受け入れる』ことに特化して描くという選択をとっているわけだ。そこに幼くして父・尾崎豊を亡くした尾崎裕哉が主題歌「glory days」を担当するという巡り合わせを得たという側面において傑作であることは否定できなくなったわけだが、それはそれとして同時に冒頭30分以外がほとんどテレビシリーズの映像の使い回しであったことに致命的な問題(物足りなさ)を抱えていると言われると、まあ正にそのとおりである。そのことには批判が多い。

尾崎裕哉「Glory Days」アニメ版(Official Music Video)
一方で、『ハイエヴォリューション2』でやったのは物語を完全にイチから構築しなおすという判断で、「本編の8割は新規カット」と言うくらいには、シナリオ面でも映像面でも、既存のエウレカセブンシリーズとは全く異なる、新しい物語を提示している*2
『「ニルヴァーシュ」という謎の現象による侵略により人類の存亡が脅かされている2028年の地球』というエウレカセブンシリーズの設定を考えたら正攻法である設定で、それを「過去のシリーズの換骨奪胎」として巧く使用したのは見事である。メインヒロインのエウレカとは対極の存在としてアネモネを主人公に置き、逆にエウレカを彼女と対立する存在に置き換える。テレビシリーズを観ていたひとからすれば「あのアネモネ/エウレカが」という驚きを新鮮な気持ちで得るのは言うまでもないだろう。もっと言えば、試写会で声優の皆さんが仰っていたように、本作ではテレビシリーズに欠けていた「いい父親」が描かれていることと、(レントンが所与のものとして受け入れていたのとは異なり)『父親の死』を作品のなかではっきりと乗りこえることはテレビシリーズに欠けていた要素だ。そのことが「憎しみを乗りこえる」という共通点によりアネモネエウレカを救うことに繋がっていくのだけれど、ここでエウレカは過去のシリーズで決して得ることのなかった「気の置けない友達」を得るという方向に結びつけている。エウレカが年の近い同性の友人と喧嘩めいた言い争いをするのとか信じられないわけですよ。それが観られただけでも最高です。
新しい作品であるだけでなく、「過去の作品に欠けていた要素を補う」。それはシリーズものの新作という観点からは正しいアプローチとしか言いようがなく、『ハイエヴォリューション2』は諸手を挙げて傑作と断言していいのではないか、と思うのだ。最終作の『ハイエヴォリューション3』がどういう話になっていくのか、それが楽しみで仕方がない。備えましょう。

RUANN「There's No Ending」Animation Music Video

*1:ついでに姉もいなくなっているはずなのだが、作中で明言されないので一旦措く

*2:正直、ハイエヴォリューション1の次回予告とはあまりにも前情報が乖離していて、観ている間中「これは作中作なんじゃないか」という疑念がスタッフロールまでずっと離れなかった