真っ白な館

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強烈な展開の裏に潜む物語の強固さ――『マガディーラ 勇者転生』感想(2009)

『マガディーラ 勇者転生』をアップリンク渋谷で観た*1。「そりゃ『バーフバリの原点』という売り出し方をされるわ」と思った。
※以下、『マガディーラ 勇者転生』およびにバーフバリ二部作(『バーフバリ 伝説誕生』『バーフバリ 王の凱旋』)のネタバレを含みます。

『バーフバリ』の原点『マガディーラ...
ざっくりと雑にまとめると「バーフバリが現代転生無双する話」である。中世(1600年前後)インドに存在したとある王国に仕える歴戦無双の勇者の活躍を描く叙事詩であり、パワフルな展開が魅力だ*2
壮大な風景の中、歴戦の勇者と彼の愛する王女が壮絶な死を遂げる。崖から落ちていくシーンが完全にスカイダイビングなのは流石だが、その後一瞬で話が400年後の現代インドに飛ぶときの外し方とインパクトである。荘厳な風貌の勇者が現代では少しおちゃらけた凄腕のバイクレーサーになっているというギャップ、突然謎の(しかしかっこいい)アップテンポなミュージックビデオが始まるという衝撃*3。全てを飲み込む勢い。そこからあれやこれやと話が進む。前世では愛し合った王女と現代で出会い、記憶はおぼろげながらも彼女に猛烈なアプローチをはじめ、しかしながら同時に前世で謀略のうちに二人を引き裂いた王女の従兄である悪役が登場し、彼との戦いのうちに前世の因縁がはっきりと語られていく。全てが明らかになった後は一気にクライマックスへ突き進むだけである。
バーフバリを観たことのある人間が映画を観れば/このあらすじを読めば、バーフバリとの構成の類似性に気づかずにはいられない。宣伝からして「バーフバリの原点」としているのに思うところがなくはなかったが*4、比較対象に上げられるのにも十分な理由があるのであり、それは正しい。そこで注視すべきは単なる類似性ではなく、類似性がはっきりと浮かび上がらせる脚本技術の高さである。他作品を観ていない現状で断定は避けるが、それは「同じ話をした」のではなくラージャマウリ監督(とその父親)の脚本技術の高さが自然とそうさせたのだと認識している*5
たとえばそれは、キャラクター同士のすれ違いの描き方だ。一見ナンパと差がないハルシャのアプローチはインドゥのしたたかさを浮き彫りにし、それに対するハルシャの態度は彼の一途さを却って際立たせる。交流を交わしながらもすれ違いつづけ、互いに思いを募らせる様子に視聴者はやきもきさせられる。それをビジュアル的に明確にしているのが、「手に触れる」という動作であるが、それは恋人同士の親密さを表す以外に、本作では「前世を思い出す」という意味づけを持っている。二人が中々手を触れあわせないことで、視聴者は二重の期待=「交流の成就」と「前世の物語の詳細を知ること」をどんどん高めさせられ、物語に引き込まれていくのである。しかも、それらが二重に設置されたことで、実際に期待が満たされることと、実際の動作とにはズレが生まれている。恋人同士になったあとでも二人は手を繋がず、ベールによる絶妙なやりとり(ベールという小道具は前世で王女と結婚するために獲得するものであり、現代でインドゥの父親にベールを返すシーンで繰り返される)が交流に使われる。ビジュアルとしても絶妙である。そして、前世の記憶を思い出すことが期待される「手を触れあう」ことが実現されるのが、ヘリコプターの上でありハルシャの落下につながるという外し方!池に落ちたことでそこから自然と前世の話に移していくという自然な流れも見事だし、前世の記憶を完全に思い出した後にソロモン/シェール・カーンが「二人を助ける存在」として出てくるのも、本来なら唐突であるところに違和感をそれほど感じさせない。
『バーフバリ』二部作にしろ、おそらくはこの『マガディーラ 勇者転生』にしろ、展開の要所要所に挟まれる強烈な展開が語られがちだけど、それを支えるのが堅実で秀逸な脚本力によるものだというのは、強く主張しておきたい次第である。
www.baahubali-movie.com

*1:そういえば、アップリンク渋谷の1階スクリーンは最前列確保が最適解っぽいですね。スクリーンの大きさ的にそれでちょうどいいし、椅子がめっちゃ快適そうだった。

*2:予算か技術の制約と思しきチープなCGが気になる部分があったが、いちいち言っても仕方あるまい。

*3:ラージャマウリ監督しかインド映画は観たことがないのだが、基本的にミュージカルと同じ文法なのだろうと理解した。時折アクションシーンなんかで謎のタイミングで映像が早送りになることが結構あったけど、これって多分「音楽に映像をあわせる」文化が根強いからなんだろうな。

*4:ラージャマウリ監督の初本邦作品がバーフバリでありそれが大ヒットしたことを踏まえると当然の売り出し方だし、これは「日本でラージャマウリ監督を紹介するならバーフバリを踏まえないのは不可能」ということだと認識している。ただそれはそれとして、感想を書く際キャラクター名を参照しようと思って公式ホームページを観に行ったら、上映予定の映画館一覧以外の情報が一切なかったので、流石に少し反省してほしい。百歩譲ってストーリーを提示しないのはいいとして、キャスト情報くらいは載せてくれ……。

*5:弓矢を教えながらイチャイチャするのは手癖に見えたけど……。