真っ白な館

思い付いたことを書きます。

円城塔+田辺青蛙『読書で離婚を考えた。』(幻冬舎、2017)

幻冬舎plusで二年ほど続いた田辺青蛙/円城塔夫妻による書評リレー企画をまとめた書籍。
夫婦で相手に作品をすすめあい、すすめられた方はその作品のレビューを執筆するというシステム。連載版にはなかった、円城塔の文章に対して円城塔はキレているようだ[円城塔]』とか、田辺青蛙の文章に対して『これけっこう、僕じゃなくて君の話だよね[円城塔]』『【そうかなぁ。[田辺青蛙]】』などといった脚注が追加されていることによって味わい深さが三倍増しくらいになっている。
タイトルがタイトルなので、読む前は全体をパラ見して「この本……脚注が後半になるにつれて減っている! サツバツ!」などと勝手なことを考えていたのだが、実際に読んでみたら総合的には夫婦によるノロケが二年間にわたって繰り広げられていた……とまとめることができるかもしれない一冊。多分そんなことを言っていたら当人たちに怒られてしまうかもしれないのだが。
書評ですすめられている作品の中身もさることながら、「この人はこの作品を一体どういう風に紹介するのだろう……」とか、「この人はあからさまに作品をすすめることから逃げているのだ!」とか、「こいつ! 剛速球でぶん投げやがった!!」みたいな、二人がどういう風に作品をレビューするのか、それを相手にどうぶん投げるのか、といった部分の「書評を通したコミュニケーション」の方にハラハラドキドキさせられたのが大変面白い。
本書は最終的に(タイトルが示すように)読書による相互理解は、まあ、あまり成されないまま終わる。ただ、ご夫妻がご夫妻なりに相互理解を深める(多分)様子は、ある意味で大変微笑ましい様相を呈している。途中で初デートの話をしはじめ、「二回目のデートで夫に和民につれていかれたが、このとき夫は私とつき合っているとは思っていなかったらしい」といった記述には読んでいて内心「キャー!」である。私の知人にも本読みの夫婦が数名いるが、その複数組から似たような話を聞いた覚えがある。彼ら彼女らをみていると、たまに「この二人は本の趣味が全く被らないのだけど、一体どういう会話をしているのだろう」と内心思うことがあったが、大体世の中の読書家(に限らず普遍的に)夫婦は、こんな感じで思っている事を言ったり言わなかったり、理解したり誤解したり、すれ違ったりすれ違わなかったりしながら、喜怒哀楽に満ちた日々を過ごしているのだろう。大変すばらしいノロケ本であった。