真っ白な館

思い付いたことを書きます。

ガブリエーレ・マイネッティ『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015)

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イタリアのアメコミ(スーパーヒーロー)もの。事前知識として、「カモッラ」とはイタリアナポリの大きなマフィアだということは知っておくといい気がする。
ローマの片隅で暮らす冴えないチンピラが、ある日超常的な身体能力を手に入れる。9階から落ちても無傷、銃で撃たれても一晩で完治。その力を使って彼は金を手に入れるために強盗を働くのだが、それが地元のマフィアの強盗を邪魔する結果になってしまい、彼らの抗争に少しずつ巻き込まれていく。
全体的に絶妙なユーモアが散りばめられているのがいい。主人公が超人的能力を手に入れるきっかけが「川に落ちてしまった際、川の底に沈んでいる放射性廃棄物を大量に摂取してしまった」とか、「強盗で金を手に入れて最初にやるのがプリンの買いためとエロDVDの大人買い」とか。
一方、暴力描写も同時に大変冴えていて、マフィアらしい拷問(火だるまとか、犬に食い殺させるとか、一族郎党皆殺しとか)もあるかと思えばヴィランによるエクストリーム虐殺動画のYoutube配信とかもおこなわれる。あと、地元マフィアのボスのキャラがとにかくいい。自己顕示欲の強い暴力だけは有能な小物なので、一周回って危険人物なのだ。そして自己顕示欲が強い。自分たちのシノギの邪魔をした主人公が、覆面でATM強盗しているYoutube動画で再生数400万回突破してるのに対抗心燃やして、なぜかYoutubeで人気者になりたがるあたりとか。そのあたりの、小物さと危険さが絶妙に同居しているのが大変ステキだった。
全体的に、あまり派手なシーンはない。基本は冴えない中年男性がちんけな強盗を繰り返す話だ。ただ、強盗仲間の娘(『鋼鉄ジーグ』の妄想にとりつかれており、主人公のことを鋼鉄ジーグだと信じている)と接するうちに彼女を愛していく様子は、人間の素朴な感情を素朴に視聴者へ提供してくる。それが大変響く。
誰かへの愛とか、「正義」といった壮大な使命感とは決して違うただ素朴な「誰かを助ける」という感情。それらが契機となって、手の届く範囲にある鮮烈な暴力に立ち向かう。主人公が自分の世界と地続きの場所でスーパーヒーローとなっていく。ストレートにヒロイックなこの物語は、主人公が冴えない中年チンピラであることによってさらにそのヒロイックさを増す。最後にマスクを被る彼の姿は、まぶしいくらいにかっこいい。